最古の抽出は「煮る」でした。粉を水と一緒に小鍋(トルコのイブリック/ジェズヴェ)で煮立てる方式は、オスマン帝国時代(his-003)から続く現役の文化遺産で、極細挽きの粉ごと注いで上澄みを飲みます。ヨーロッパに渡った18〜19世紀、人々は「粉を分離する」工夫を始めます——布袋で漉す、金属の穴あき容器に粉を入れて湯を通す(初期のパーコレーター類)。この「煮出しから濾過へ」の転換が、抽出史の第一幕です。

01 19〜20世紀初頭: 発明ラッシュ

19世紀は器具の爆発期でした。フランスで濾過式ポット(ドリップの原型)が普及し、1840年代には真空式(サイフォン、kn-089)が英仏で相次いで実用化——スコットランドのネイピアの名や、フランスのヴァシュー夫人の優雅なガラス器が知られます。各国の台所にパーコレーターが広がり、そして1908年、ドイツの主婦メリタ・ベンツが紙で漉すペーパードリップを発明(his-008)し、家庭抽出の標準が生まれます。「誰でも・清潔に・簡単に」——この発明の思想は、今日のすべてのドリッパーに流れています。

02 20世紀: 圧力と自動化

20世紀は圧力の世紀です。1933年ビアレッティのモカポット(kn-094)が蒸気圧をイタリアの台所へ、1948年ガジアのレバー式マシンが9気圧とクレマ(kn-090)をバールへ持ち込みました。1941年にはドイツ出身のシュルンボームが一体型ガラス器ケメックスを発表し、美術館の永久収蔵品になる美しさで「器具はデザインである」ことを宣言。戦後は電動ドリップメーカーが普及し、1970年代の日本ではハリオ・カリタ・コーノらが円錐・扇形ドリッパーを磨き上げ、喫茶店文化(his-007)と共にハンドドリップが職人技へ深化していきます。

03 21世紀: 個人の発明と再結合

現代の器具史は「個人の発明」が主役です。2005年、フリスビー改良でも知られる発明家アラン・アドラーのエアロプレス(kn-088)。同年のハリオV60(kn-083)は日本の設計が世界の競技標準へ。クレバーやスイッチ(kn-101)は浸漬と透過を再結合し、スマートスケールやアプリ連動ブリュワーはレシピをデータ化しました。300年の歴史は『煮る→漉す→圧をかける→制御する』の進化として一本につながっており、あなたの台所のドリッパーには、その全部の記憶が畳み込まれています。