歴史コラム
コーヒーの誕生から現代まで。年代の古い順にたどる、一杯の歴史の年表です。
起源 — エチオピアとアラビア
カルディの伝説とイスラム世界
ヨーロッパ伝播
カフェ文化の誕生と植民地栽培
- 1615年頃
ヴェネツィア上陸 — ヨーロッパが「イスラムの酒」に出会う
地中海交易の女王ヴェネツィアに、コーヒーがヨーロッパで最初期に上陸。「異教徒の飲み物」を巡る騒動は、教皇のお墨付きという伝説で決着する。
- 1652年
ロンドンのコーヒーハウス — 1ペニー大学とロイズ
ロンドン初のコーヒーハウスが開店。「1ペニー大学」と呼ばれた社交場からは保険市場ロイズや証券取引所が生まれた。
- 1683年
ウィーン包囲とカフェ文化の誕生 — 敵軍が残した緑の豆
第二次ウィーン包囲の撤退時、オスマン軍が残した豆袋からウィーンのカフェ文化が始まった——という伝説。ミルクと砂糖の「ウィーン風」はここから世界へ。
- 1723年
苗木の大航海 — 植民地プランテーションの光と影
一本の苗木がカリブへ渡り、コーヒーは世界商品になった。その裏には植民地と奴隷労働の歴史がある。
- 1727年
ブラジルの世紀 — 世界一の生産国へ
1727年にコーヒーが伝わったブラジルは、19世紀に世界生産の大半を占める「コーヒーの帝国」となった。
- 1789年
パリのカフェと啓蒙・革命 — 議論が歴史を動かした
プロコップに始まるパリのカフェは、ヴォルテールらの啓蒙思想の実験室となり、1789年、カフェ・フォワの演説からバスティーユへ群衆が向かった。
産業化の世紀
ブラジルの台頭と大量消費
- 1830年
ジャワ強制栽培制度 — 「一杯のジャワ」の代償
オランダが導入した強制栽培制度は、ジャワ島の農民にコーヒー栽培を義務づけた。欧州の食卓の豊かさは、植民地の犠牲の上にあった。
- 1869年
セイロンさび病 — 紅茶の島を作った菌
世界有数のコーヒー産地だったセイロン島を、一枚の葉の菌が壊滅させた。島は紅茶へ転換し、世界の飲料地図が塗り替わった。
- 1888年
可否茶館 — 日本初の本格コーヒー店
1888年、東京・下谷に開店した「可否茶館」は日本初の本格的コーヒー店とされる。
- 1888年
ブラジル奴隷制廃止とコーヒー — 黄金律の影の清算
世界一のコーヒー帝国ブラジルの繁栄は、奴隷労働の上に築かれていた。1888年の「黄金法」による廃止は、コーヒー史が抱える最大の影の転換点である。
大衆化の時代
産業の世紀と日本の喫茶文化
- 1906年
ブラジル価格維持政策 — 国家がコーヒーを買い占めた時代
供給過剰で暴落する相場に、ブラジルは国家買い上げで対抗した。「バロリゼーション」は史上最大級の価格介入実験だった。
- 1908年
メリタ・ベンツとペーパードリップの発明
ドイツの主婦メリタ・ベンツが真鍮の鍋に開けた穴と吸取紙から、ペーパードリップが生まれた。
- 1927年
コロンビアFNC設立 — 54万農家の国家ブランド
1927年に生まれた生産者連合会は、小農の集合体を世界ブランドに変えた。フアン・バルデスの原点がここにある。
- 1930年代
喫茶店黄金期 — 昭和モダンの「一杯の社交場」
銀座のカフェーから街角の純喫茶へ。昭和初期の日本は、独自の喫茶店文化を花開かせた。ネルドリップとサイフォンの職人技はこの時代に磨かれた。
- 1938年
インスタントコーヒーの発明 — 日本人化学者と大恐慌の在庫
発明の先駆者は日本人化学者・加藤サトリ。そして大恐慌のブラジル余剰豆が、ネスカフェを世に送り出した。
- 1948年
エスプレッソマシン進化史 — 蒸気からクレマの発見へ
「急行」の名を持つマシンは、蒸気圧の1901年からガジアの1948年へ。クレマの発見が、イタリアのバールを世界の聖地にした。
- 1968年
カフェ・バッハと自家焙煎運動 — 職人の時代の号砲
東京・山谷に開いた一軒の喫茶店が、日本の「自家焙煎」文化の源流になった。田口護のカフェ・バッハは、技術の言語化と後進育成で業界の学校となる。
- 1969年
世界初の缶コーヒー — 日本発の発明
1969年、UCC上島珈琲が世界初のミルク入り缶コーヒーを発売。「いつでもどこでも」を実現した日本発のイノベーション。
ウェーブの時代
セカンドウェーブとシアトル系
- 1971年
スターバックス創業とシアトル系の世界制覇
1971年シアトルの豆売り店として生まれたスターバックスは、「サードプレイス」を掲げて世界最大のカフェチェーンとなった。
- 1973年
ホット&コールド自販機 — 街角が喫茶店になった日
同じ機械で温かい缶と冷たい缶を売る——日本発の自販機技術が、缶コーヒー(1969年)を国民飲料に変えた。
- 1974年
「スペシャルティコーヒー」の誕生 — クヌッセンの造語が市場を作る
『特別な地理条件が特別な風味を生む』——エルナ・クヌッセンが業界誌で使った一語が、価格ではなく品質で語る市場の旗印になった。
- 1986年
ネスプレッソとカプセル史 — 「一杯分」を密封するという発明
エスプレッソを一杯分ずつアルミに閉じ込める——1986年に船出したネスプレッソは、20年の雌伏を経て家庭のコーヒーを再定義した。
- 1989年
国際コーヒー協定の崩壊とコーヒー危機 — 相場が農家を襲う
輸出割当で価格を支えてきた国際コーヒー協定の経済条項が1989年に失効。自由化された相場は暴落し、産地は「コーヒー危機」の時代へ突入する。
- 1999年
カップ・オブ・エクセレンス創設 — 無名の農家に世界への扉
1999年ブラジル。品評会で頂点を競い、オークションで世界へ売る——COEの誕生は、コーヒー危機の時代に「品質が報われる」道を切り開いた。
サードウェーブと現代
スペシャルティコーヒーの世界
- 2002年頃
サードウェーブ — コーヒーを「作品」として飲む
2002年頃に言語化された「サードウェーブ」は、豆の個性と生産者に光を当てる新しいコーヒー観を打ち立てた。
- 2004年〜現在
スペシャルティの現在 — ゲイシャ、COE、そして気候変動
2004年のパナマ・ゲイシャの衝撃以降、コーヒーは品質競争の時代へ。同時に気候変動という最大の課題に直面している。
- 2013年
コンビニコーヒー革命 — 100円が変えた日常の味
2013年、セブン-イレブンの「セブンカフェ」が大ヒット。100円の挽きたて一杯が、日本のコーヒー人口を一気に押し広げた。
- 2015年
ブルーボトル上陸 — 日本のサードウェーブ元年
2015年、清澄白河にブルーボトル日本1号店が開店し「サードウェーブ」が流行語に。だがその中身は、日本の喫茶文化がひと回りして帰ってきたものだった。
- 2010年代
RTDコールドブリューの台頭 — 「時間」を缶に詰める
ニューヨークの氷の上で始まったコールドブリューブームは、無菌充填技術と出会い、世界の冷蔵棚を塗り替えた。