精製はかつて「豆を取り出す下処理」でしたが、いまや「風味を設計する工程」へと進化しました。その中間地点にあるのがハニープロセス。果肉は除去しつつ、糖分を含むミューシレージをどれだけ残して乾かすかで、ホワイト(ほぼ除去)→イエロー→レッド→ブラック(ほぼ全残し)と段階が分かれます。残す量が多いほど乾燥が難しくなる代わりに、甘さとボディが増します。コスタリカで発展したこの技法は、ウォッシュドのクリーンさとナチュラルの甘さの『いいとこ取り』として人気を集めました。
01 アナエロビック(嫌気発酵)の衝撃
2010年代後半、コーヒーの味の常識を塗り替えたのがアナエロビック・ファーメンテーション(嫌気発酵)です。実やミューシレージ付きの豆を密閉タンクに入れ、酸素を抜いた環境で発酵させると、通常とは異なる微生物が働き、シナモン・ラム酒・トロピカルフルーツ・発酵感のある独特の風味が生まれます。ワイン醸造の発想をコーヒーに持ち込んだこの手法は品評会を席巻し、「精製で無から有を作れる」ことを証明しました。二酸化炭素で満たすカーボニック・マセレーション(ワインの製法名を借用)など、派生技法も次々に登場しています。
02 賛否と『やりすぎ』問題
一方で、強い発酵風味には賛否があります。「豆本来の個性やテロワールが発酵香に覆い隠される」「どの産地の豆も似た味になる」という批判は根強く、品評会でも評価軸を巡る議論が続いています。また、無管理な嫌気発酵は不快な欠点(過発酵臭・アルコール臭)と紙一重で、高度な温度・pH管理が必要。精製の自由度が上がったぶん、作り手の意図と技術がこれまで以上に問われるようになりました。『素材を活かす』のか『味を作り込む』のか——精製は、コーヒーの哲学が問われる場になっています。