焙煎は抽出法とセットで設計されます。同じ生豆でも、ハンドドリップ(フィルター)で飲むのか、エスプレッソで抽出するのかによって、最適な焙煎の狙いが変わるからです。フィルター抽出は湯がゆっくり粉を通り、繊細な酸や香りを引き出しやすい。一方エスプレッソは高圧・短時間で凝縮された液体を作るため、酸が強く出すぎたり、未発達の風味が濃縮されて不快になったりしやすい。だから伝統的にエスプレッソ用は中深〜深煎りで、酸をまろやかにしボディとコクを厚くする方向に焙煎されてきました。
01 フィルターロースト
フィルター(ドリップ)向けの焙煎は、豆の個性・酸・香りを活かす方向です。浅〜中煎りが中心で、産地のテロワールや品種の風味を前面に出します。北欧系ロースターのライトローストはこの極致で、紅茶のように澄んだ酸と華やかな香りを狙います。発達をしっかり取りつつ焙煎度は浅めに保つ——という繊細な設計が求められ、生豆の質がそのまま出ます。フィルターローストは『素材を見せる』焙煎で、スペシャルティの浅煎りブームを牽引してきました。
02 エスプレッソローストとオムニロースト
エスプレッソ向けは、凝縮しても破綻しない設計です。中深〜深煎りでボディとクレマ、甘さとコクを重視し、ミルクと合わせても負けない骨格を作ります。近年は浅めの『モダンエスプレッソ』も増え、酸のある明るいエスプレッソも登場しました。さらに、フィルターにもエスプレッソにも使える『オムニロースト(万能焙煎)』という設計も広がっています。家庭で一つの豆を両方の淹れ方で使いたいニーズに応えるもので、中庸な焙煎度でバランスを取ります。焙煎度の選択は、飲み方という『出口』から逆算するのが理にかなっています。