スペシャルティコーヒーのテロワール追求(kn-040)は、ロットの単位をどんどん細かくしてきました。かつては『生産国』単位、次に『農園』単位、そして今は『マイクロロット』——同じ農園でも特定の区画・品種・標高・収穫日・精製方法ごとに分けて精製・管理した、際立った個性のロットです。さらに小さい『ナノロット』は、ごく限られた数十kg単位の特別なロット。『この斜面の、この品種の、この日に摘んだ豆を、この精製で』という究極の個別性を、一杯の中に閉じ込めようとする試みです。
01 なぜ細かく分けるのか
ロットを細かく分ける理由は、品質と経済の両面にあります。品質面では、農園の中でも突出した区画や、特に良い日の収穫を分けて精製すれば、混ぜたら埋もれてしまう卓越した個性を際立たせられます。経済面では、優れたマイクロロットは高値で取引され、その収益が生産者に直接還元される。全部を混ぜて平均的な値で売るより、突出したロットを分けて高く売るほうが、農家の収入と品質向上への動機になります。カップ・オブ・エクセレンスの入賞ロットの多くは、こうして丁寧に分けられたマイクロロットです。
02 消費者にとっての意味と限界
マイクロロット・ナノロットは、消費者に『唯一無二の一杯』を届けます。『パナマ・エスメラルダ農園・ゲイシャ・特定区画・◯◯年収穫・ナチュラル』といった詳細な情報とともに、その組み合わせでしか出ない味を体験できる。ワインの単一畑(グラン・クリュ)に似た贅沢です。一方で、数量が極めて少なく高価で、すぐ売り切れる。日常的に飲むものというより、『特別な体験』としての位置づけです。また、細分化が進みすぎると『情報の消費』に偏る懸念もあり、味の本質より希少性やラベルが先行する危うさも指摘されます。個別性の追求は、スペシャルティの魅力であると同時に、その先端の課題でもあります。