フィン(phin)は、カップの上に載せる小さな金属製フィルターです。穴の開いた受け皿・粉を入れる筒・中蓋(重し)・蓋の4点構成で、湯を注いだら重力だけでポタポタと落ちるのを待つ——構造上はドリップとイブリックの中間のような、ゆっくりした透過式です。ベトナムの豆はロブスタ(kn-002)が主力。強い苦味と厚いボディを持つロブスタの深煎りを、フィンで濃く抽出し、甘い練乳と合わせる——この組み合わせがベトナムコーヒーの基本形です。

01 カフェスダの作法

代表メニュー『カフェ・スア・ダー(cà phê sữa đá)』の手順: (1)グラスに練乳を大さじ1〜2敷く。(2)フィンに中細〜中挽きの粉15〜20gを入れ、軽くならして中蓋を載せる。(3)少量の湯で30秒蒸らし、湯を筒の上まで注いで蓋をする。(4)4〜5分かけてポタポタと落ちるのを待つ。(5)落ち切ったら練乳をよく混ぜ、氷をたっぷり入れたグラスに注ぐ。濃い抽出液×練乳の甘さ×氷の冷たさ——三位一体の完成形は、暑いハノイやホーチミンの気候が生んだ必然の設計です。ホットで練乳入りなら「カフェ・スア・ノン」になります。

02 待つことが仕込みになる

フィンの抽出は5分前後と、せっかちには長い時間です。しかしベトナムの路上カフェでは、この「待ち時間」こそが文化——低い椅子に腰掛け、落ちる滴を眺めながら街を見る時間までがコーヒーです。技術的には、落ちが速すぎる(2分未満)なら挽きを細かく・中蓋を軽く押さえ、遅すぎる(7分超)なら挽きを粗く。ロブスタがなければ深煎りアラビカでも作れますが、練乳に負けない苦味の骨格という意味では、ベトナム産ロブスタ(bean-012)の起用が本場の味への近道です。

03 エッグコーヒーと広がる文化

ベトナムのコーヒー文化はカフェスダだけではありません。ハノイ名物『エッグコーヒー(カフェ・チュン)』は、卵黄と練乳を泡立てたクリームを濃いコーヒーに載せる、戦後の牛乳不足が生んだ発明。ココナッツミルクのスムージーと合わせる「カフェ・コット・ズア」、ヨーグルトコーヒーなど、乳製品との自由な組み合わせが花開いています。近年はベトナム国内でもアラビカ栽培(ダラット高原)とスペシャルティの動きが育っており、「ロブスタの国」の次の顔が世界の注目を集めつつあります。