アラビカ種は、年平均気温18〜22度前後という狭い快適帯でしか本来の品質を発揮できません。この繊細さゆえ、気温上昇は深刻な脅威です。しばしば引用される研究では、対策を取らなければ2050年までに現在のアラビカ栽培適地の約半分が失われうるとされます(いわゆる『2050年問題』)。高温は生育不良・品質低下・病害虫の増加を招き、さび病やベリーボーラーの活動域も高地へ広がる。すでに一部の産地では収量減や品質変化が報告されており、コーヒーの未来は、この気候の壁をどう越えるかにかかっています。
01 3つの希望
課題に対し、希望も生まれています。第一に耐性品種。高温や病害に強く、味も良いF1ハイブリッドや野生種由来の品種開発が進んでいます。第二に産地の適応。日陰樹による温度緩和、より高地への畑の移動、灌漑や土壌管理の改善など、栽培技術での適応。第三に遺伝資源の発掘。2018年に再発見された高温耐性の野生種ステノフィラや、エチオピアの森に眠る数千の在来系統は、未来のコーヒーを支える『遺伝子の保険』です。研究機関ワールド・コーヒー・リサーチなどが、こうした品種開発と適応策を世界規模で進めています。
02 ロブスタと新しい選択肢
気候変動は、コーヒーの『種の勢力図』も変えつつあります。高温多湿に強いロブスタ(カネフォラ)は、温暖化に適応しやすく、丁寧に作られた『ファインロブスタ』の品質評価も上がってきました。アラビカ一辺倒だった高品質市場に、ロブスタや他種の居場所が生まれつつあります。同時に、産地の分散(新興国の台頭)や、垂直農法・精密農業といった技術革新も模索されています。私たち消費者にできるのは、持続可能な生産を支える一杯を選ぶこと。品質と環境に配慮した豆への支払いが、産地の適応投資の原資になります。