コーヒーノキの人生は、パーチメント(内果皮)付きの種子を苗床にまくところから始まります。約1〜2か月で発芽し、双葉が開くまでの姿は「ソルジャー(兵隊)」と呼ばれる愛らしいマッチ棒状。苗床で半年ほど育てた苗を畑に移植し、そこから初めての本格的な収穫までさらに3〜4年かかります。つまり今日飲んだ一杯は、少なくとも3年以上前に誰かが植えた木の実りです。農家にとって新しい品種への植え替えは「3年間収入が減る」決断であり、これがコーヒー産業の変化がゆっくりである最大の理由でもあります。

01 ジャスミンのような白い花

コーヒーノキはジャスミンに似た香りの白い花を咲かせます。開花はわずか2〜3日。アラビカ種は自家受粉できるため一斉に実を結びますが、乾季と雨季の境目の雨(ブロッサムシャワー)が開花の引き金になるため、雨のタイミングがバラバラだと開花も収穫も分散してしまいます。開花から果実の成熟までは約6〜9か月。同じ枝に花と未熟果と完熟果が同居することも珍しくなく、良質なロットほど「完熟果だけを選んで摘む」手間がかかっています。

02 収穫、そして木の寿命

収穫方法は、完熟果を一粒ずつ手で摘むハンドピッキング、枝をしごき落とすストリッピング、ブラジルの大農園で使われる収穫機械の3通り。品質重視の産地ほど人手に頼るため、収穫期には大量の季節労働者が働きます。木の経済寿命はおよそ20〜30年。老木は切り戻し(カットバック)で若返らせることもあります。1本の木から採れる生豆は年間およそ1〜2kg——カップにしてわずか100〜200杯分です。