SLとは、1930年代にケニアで品種研究を担ったスコット農業研究所(Scott Agricultural Laboratories)の頭文字。同研究所は数百の系統を収集・観察し、有望なものに「SL+番号」を付けました。SL28は乾燥への耐性を目的にタンガニーカ(現タンザニア)の耐乾系統から選抜されたもので、後にこれが「果実味の爆弾」であることが判明します。SL34はフレンチミッション(フランス人宣教師が持ち込んだブルボン系)由来とされてきましたが、近年の遺伝子解析でティピカ系に近いことが分かるなど、家系図の書き換えも起きています。

01 なぜあの果実味が出るのか

ケニアコーヒーの代名詞であるカシス・ブラックベリー・トマトのような鮮烈な酸と果実味は、品種(SL28/34)だけでなく、ケニア独特の生産システムとの合わせ技です。高標高(1,500m以上)の火山性土壌、リン酸をはじめとする土壌組成、そして「ケニア式」と呼ばれる二重発酵ウォッシュド精製(発酵→洗浄→再浸漬)が、あの立体的な酸を作ると考えられています。同じSL28を中米に植えてもケニアの味を完全には再現できないことが、テロワールの力を逆説的に証明しています。

02 オークションと等級の国

ケニアの流通も独特です。多くの豆は週次のナイロビ・オークションで取引され、AA(最大粒)・AB・PB(ピーベリー)などのスクリーン等級と、カップ品質で価格が決まります。近年はサビ病耐性のルイル11やバティアンへの植え替えも進んでいますが、味の評価では今もSL系が別格扱い。「ケニアAA・SL28主体・ウォッシュド」という表記は、果実味系コーヒーの最高水準を示す記号として、世界のロースターに信頼されています。