ベトナムの現在は、1986年の経済改革ドイモイが作りました。中部高原(ダクラク省バンメトート周辺)へのロブスタ集中投資で、1990年代に生産量が爆発。わずか十数年でブラジルに次ぐ世界2位へ駆け上がった、農業史でも稀な急成長です(kn-134)。生産の9割超がロブスタ(bean-012)で、インスタント(kn-048)と缶コーヒー(kn-049)の世界供給を支える影の主役。国内では練乳文化(kn-113)が花開き、いまダラットのアラビカ(bean-032)とファインロブスタ(kn-056)が「量の帝国」に質の物語を書き加えつつあります。

01 インド——僧院の7粒から続く古豪

インドの物語は17世紀、聖者ババ・ブーダンがメッカ巡礼の帰路、イエメンから7粒の種子を持ち出してカルナータカの丘に植えた伝説に始まります(kn-134)。以来400年、南部(カルナータカ、ケララ、タミルナドゥ)の丘陵で、コショウやカルダモンと混植する日陰栽培(kn-032)の伝統が続く——スパイス農園の中のコーヒーという、世界でも独特の景観です。名物モンスーンマラバール(bean-031)は帆船時代の偶然を製法化した唯一無二の熟成銘柄。ロブスタの品質(カーピロイヤル等)にも定評があり、伊のエスプレッソ文化を裏で支えてきました。

02 対照的な二つの発展モデル

両国は「アジアの生産大国」の対照的な二類型です。ベトナム=単一作物への集中投資と規模の経済。速いが、相場(kn-054)と気候変動(kn-055)への感度も高い。インド=多品目混植と内需の厚み。南アジアの喫茶文化(チャイの国でもある)と成長するカフェ市場が、輸出依存を和らげる緩衝材になっています。どちらのモデルにも学びがあり、両国のロブスタ改良(kn-056)は「ポスト・アラビカ時代」の世界の保険でもある——2位と古豪の動向は、コーヒーの未来図の重要なピースです。

03 買い方と飲み方の実践

実践指針: ベトナムは(1)フィン+練乳の正統(kn-113)をロブスタで、(2)ダラット・アラビカ(bean-032)で新しい顔を、の二本立てが楽しい。ロブスタはエスプレッソブレンド(kn-069)のクレマ増強にも。インドはモンスーンマラバール(bean-031)の枯れた深みを深煎り・ネル(kn-112)で——好みが割れる豆なので、まず少量で。プランテーションA(ウォッシュドの最上位規格)は、日陰栽培の穏やかな甘さの入口です。二国を並べる「アジア二大国カッピング」は、ロブスタとアラビカ、若い帝国と古豪の対比が一度に味わえる好企画です。