始まりは1870年、ブラジル・バイーア州マラゴジッペで見つかったティピカの突然変異でした。葉も実も種子も何もかもが大きいこの変異体は発見地の名を取ってマラゴジッペと呼ばれ、「エレファントビーン」の異名で各地に広がります。ただし収量が少なく味の評価も安定しなかったため、主役にはなれませんでした。この巨大豆の遺伝子に再び光を当てたのがエルサルバドルのコーヒー研究所。扱いやすい矮性のパカスと交配し、約30年の選抜を経て1980年代に「パカマラ」を世に送り出しました。

01 品評会の寵児へ

パカマラの真価が世界に知られたのは2000年代、カップ・オブ・エクセレンス(COE)の舞台です。エルサルバドルやグアテマラのCOEでパカマラのロットが次々に優勝・上位入賞し、「ゲイシャに対抗できる唯一の品種」とまで呼ばれるようになりました。風味はゲイシャの花香系とは対照的な、ハーブ・出汁・ストーンフルーツを行き来する複雑系。クリーミーな質感と、どこか塩気を感じるような旨味の余韻が特徴で、「一杯の中で味が変わり続ける」体験型のコーヒーです。

02 巨大豆ゆえの苦労

粒が大きいことは、生産・焙煎の両面で扱いにくさでもあります。畑では実の重さで枝が垂れ、収量はブルボン系より控えめ。焙煎では、豆の外と中心の温度差が大きくなりやすく、火の通し方の設計が難しいとされます。それでも品評会価格が労力に報いるため、エルサルバドルの高地農園を中心に、グアテマラ、ニカラグア、ホンジュラスでも栽培が広がっています。中米の品種といえばカトゥーラ系一色だった時代からの、鮮やかな巻き返しです。